ご案内
はじめに医療にもユーザーとプロバイダーがいる「代替医療」ということばが、ようやく日本でも使われるようになりました。
代替医療とは、現代西洋医学以外のすべての治療法・健康法の総称です。
「補完医療」「相補代替医療」ということばも使われはじめていますが、これらもおなじものの別称です。
学術誌などでは「補完(相補)代替医療」を意味する英語の頭文字をとった「CAM」という略称を使いはじめました。
このように名称が定まらないのは、それがいままさに日本に定着しようとする途上にあるからです。
長年、代替医療の認知を願ってきた筆者としては喜ぶべき傾向ではあります。
しかし一方では、手ばなしで喜んでばかりはいられないという現実も目につきます。
現代西洋医学に頼って失望したから、こんどは代替医療に頼ってみよう。
とにかく具合の「わるいところ」を「治して」くれさえすればなんでもいい。
そんなふうに、代替医療を新種の「故障した部品の修理技術」だと他律的にかんがえている人たちがふえているのです。
そうした人たちのニーズに応えて、その本質を理解することなく、安易に代替療法をとり入れる医師もふえているようです。
「代替医療」ということばが普及するにつれて、それに惹かれる医療消費者の増加傾向をビジネスチャンスとして利用しようとする商魂も目につきます。
良心的なビジネスはもちろん歓迎すべきですが、迷える人の弱みにつけこむ悪質なビジネスも、あきらかに横行しはじめています。
たしかに医療の選択肢がふえることは望ましい。
しかし、まず医療消費者自身が健康や病気や治癒にたいする意識を変え、ライフスタイルをラジカルに変えていかないかぎり、国民医療費が毎年一兆円ずつふえ、三〇兆円をこえるという危機的な事態が大きく改善するとはおもえません。
医療費の支払い先が現代医学の病院から代替医療の治療家にかわったとしても、自分はなにもせずに専門家に「治してもらう」という受け身の態度が変わらないかぎり、生活習慣病の羅患率が下降するとはおもえないのです。
医療消費者とは患者および患者予備軍、つまりはわたしたち全員のことです。
健康の回復や増進のために代価を支払う立場にある人は、好むと好まざるとを問わず、みんな医療消費者というカテゴリーに入っています。
代価を支払ってなにかを買ったりサービスをうけたりする以上、消費者は商品やサービスにたいする正しい知識をもち、その賢い利用法を知っておく必要があります。
そうしないと、結局は愚かな買い物をしてしまったと後悔することになります。
そうした意味で、医療を利用する人が消費者意識をもち、サービスの内容について知識をもつことはとても重要なのです。
医療を「消費」するというかんがえかたに抵抗をおぼえる人もいるかもしれません。
しかし、医療は本来、特権的な医療者が上から患者に「施す」ものではありません。
患者側からみれば、医療者に「治してもらう」ものではないということです。
専門家である医療者と患者が対等な立場でパートナーシップをくみ、専門家が提供する知識と技術の援助を得ながら、患者が生命力・自発的治癒力を高めて、自然に「治る」ような方向にみずからの心身をコントロールしていく。
これが医療の望ましいありかたです。
医療者が患者に提供するものが専門的な知識や技術ばかりではなく慈しみや愛であれば、それはさらに望ましいものになります。
とはいえ、たとえそんなばあいであっても、専門家はその知識と技術で生活をしているのですから、提供された知識・技術にたいする代価を支払うのはとうぜんのことでしょう。
だとすれば、医療は実質的にはサービス産業に近いところに位置するものだとかんがえてもおかしくはないはずです。
医療消費者としての自覚をもつことのもうひとつの重要性は、その自覚をもてば、自分が消費する対象を、自己責任において自由に選ぶことができるようになるところにあります。
他の商品やサービスにたいして代価を支払うときは選択の権利を自由に行使している人が、医療にたいしてだけはその権利を放棄してしまうのは奇妙な話だとはおもいませんか?現代医学のさまざまな治療法のオプションであれ、多種多様な代替療法であれ、それを選ぶ権利と責任はつねに消費者の手のなかにあるのです。
アメリカでは医療者側をヘルスサービスの「プロバイダー」(提供者)、患者側を「ユーザー」(利用者)と呼ぶようになってきました。
そして一九九〇年代以降、アメリカのユーザーたちが代替医療に支払う金額の総額が(医療保険でカバーされずに)病院やクリニックの窓口で支払う金額の総額をうわまわるという現象がおきています。
代替医療にたいする国民のニーズが高まり、代替医療マーケットがそれだけ巨大化しているということです。
国民医療費の高騰、現代医学の限界というおなじ問題をかかえている日本も、「代替医療」という社会的な枠組みの形成こそ遅れていますが、じつはすでにかなり大きな代替医療マーケットができあがっていて、しかも急成長をとげています。
しかし、マーケットだけが先行して形成されていながら、代替医療の本質にたいする理解が進んでいない。
したがって、代替医療が不健全なかたちで普及しはじめている。
しかも現在の日本のマーケットは、本来あるべき代替医療の姿からみると、ずいぶん物質的なものに偏っている。
だから、公的機関による有効性や安全性の裏づけがなにもないままに、不当に高価なサプリメント(健康補助食品)を買わされたり、自分は変わらずに「治してもらう」相手を医師から治療家にかえるだけという医療消費者がふえている。
それが問題なのです。
本書を書こうとおもいたったのは、医療のユーザーにもプロバイダーにも代替医療の本質を知っていただきたいという願いがあってのことでした。
したがって本書は、各種代替療法の解説やそれぞれの症状・病気にあった代替療法ガイドではなく(巻末で紹介しますが、そのような本はすでに何冊も出ています)、現代医学とはまったく価値観の異なった代替医療を理解するための視点を提供する場にしたいとおもいます。
その第一は「代替文化としての代替医療」もしくは「持続可能な代替文明の一翼としての代替医療」という視点。
第二は多種多様な代替医療に共通する最大の要素としての「自発的治癒力」「生命力」という視点。
そのふたつの視点からみた代替医療を鏡とみたてて、そこに現代医学の本質を映しだしてみるというのが第三の視点です。
代替医療の本質については、すでにアンドルー・ワイル(アリゾナ大学医学校教授)が卓越した考察をしていますが、残念ながら、その著書の一部には専門領域にわたる記述があり、読者から「むずかしすぎる」という感想をきくことがしばしばあります。
そこで、ワイルの著書のほとんどを翻訳してきた筆者が、非力をもかえりみずに、かれの著書『人はなぜ治るのか』『癒す心、治る力』『心身自在』などを再読しながら、その要点をわかりやすく紹介するという方法を本書の随所に導入することにしました。
代替医療の本質を理解するために最低限必要な知識を身につけた賢い医療消費者がふえることに、本書が少しでも寄与できればこれ以上の喜びはありません。
賢い消費者に支えられていきなり代替医療の話題に入るまえに、オーガニック野菜の話題からはじめてみます。
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